パウロ・コエーリョ著の小説『アルケミスト 夢を旅した少年』。
前回の記事からの続きです。
クリスタルのグラスでお茶を売ってもいいと、商人から言われた少年。
丘の上にあるお店に来るお客さんは、だいたい疲れて喉が渇いています。
そのついでにお店のクリスタルを売るという計画も大成功します。
毎日大勢のお客さんが店に来るようになったので商人は従業員をさらに二人雇うことになります。
そしてクリスタルの他、たくさんのお茶を輸入し始め、大繁盛しながら月日が経つのでした。
出発の日
少年がアフリカ大陸に初めて足を踏み入れてかは、11ヶ月と9日が経過していました。
その日、少年は夜明け前に目を覚まし、今日のために買ったアラビアの服を着て、ひとり静かに水ギセルを吸います。
ポケットには札束があり、このお金で羊120頭およびアフリカの物品を自国に輸入する免許を買えます。
そのうち商人のほうも目を覚ましてきて、二人でまたお茶を飲みました。
「今日出発します」と少年は言って、続けます。
「僕は羊を買うのに必要なお金ができました。あなたは、メッカに行くのに必要なお金がありますよね」
「わしは、おまえを誇りに思ってるよ」と言う商人ですが、次の言葉が少年にとっては意外でした。
「おまえはわしがメッカに行かないと知っている。自分が羊を買わないと知っているようにな」
驚く少年に対し、年老いた商人は「マクトゥーブ」と少年を祝福しました。
2つの石が前兆を告げる
少年が出発のために荷造りをしていると、2つの石、ウリムとトムミムが久しぶりに出てきます。
それを見て少年はかなり久しぶりに年老いた王様のことを思い出します。
彼は堂々とスペインに帰ることを目標に、休むことなく1年近くせっせと働き続けていました。
ウリムとトムミムを手に取ると、王様が近くにいるようなときめきを感じ、前兆が「今こそ行く時だ」と告げます。
でも少年の思考は、自分は羊飼いに戻るつもりなのだと考えています。
羊たちは、この世には誰もが理解する1つのことばがあるということを教えてくれていました。
そのことばは「熱中」「愛」「信念」「追求」といったものを表現します。
年老いた王の言葉を、少年はまだ覚えています。
「おまえが何か欲するとき、宇宙全体が協力しておまえを助けてくれるよ」
声をかけたら泣いちゃうから
少年が店を出発しようと階段を降りると、お客さんの相手をしている商人の後ろ姿が見えます。
その後ろ姿の髪の毛の感じが、あのときの王様に似てると少年は気づきます。
ついでにアフリカに来た初日に出会ったキャンディのおじさんの笑顔も、王様に似ていたことを思い出します。
王様はさまざまな形で少年を助けていたわけです。
少年は、今クリスタル商人を呼び止めてさよならを言ったら絶対自分は泣くと思い、あえて何も言わずに出発するのでした。
羊飼いにはいつでも戻れる
そのときの少年は、元の羊飼いに戻るつもりでいたのですが、その決心に対して、もはやときめきを感じません。
おそらくそれは本当の夢ではないからです。
羊飼いに戻ることはいつでもできるけど、エジプトのピラミッドに行くチャンスは今回限りだと少年は考えます。
彼が羊の群れに戻りたいと感じるのは、単にそれに慣れ親しんでいたからであり、宝物のある砂漠というのは彼にとって未知の領域です。
でも例え上手くいかなかったとしても、そのときは故郷へ帰ればいいのだと思うと、少年は急に気持ちが楽になりました。
そして少年は伝説の王様にも出会っていたわけで、その事実が彼をいっそうやる気にさせました。
「わしはいつも近くにいるよ。夢を実現しようとする者のところにな」
王様の言葉を思い出しながら、とりあえずピラミッドが実際どれだけ遠いのかくらいは調べようと、少年は行動に出たのでした。
【記事09に続く】
パウロ・コエーリョ著『アルケミスト 夢を旅した少年』
コメント