グーグルのマインドフルネス本『サーチ・インサイド・ユアセルフ』以下、SIY。
前回の記事からの続きです。
回復力(レジリエンス)とは、自分の行く手に待ちうける障害を克服する能力のこと。
今回は回復力を「内面の穏やかさ」「情動的な回復力」「認知的な回復力」という3つのレベルで鍛えていく方法を学んでいきます。
幸せは深い海のようなもの
心の中の穏やかさに、いつでもアクセスできるかどうかがカギとなります。
「世界一幸せな人間」と呼ばれる僧侶、マチウ・リカール氏は、幸せは深い海のようなものだと説明します。
水面は波立っていても、底はいつも穏やかだということ。
この深い部分の穏やかさがわかれば、日常生活の浮き沈みがどれだけあっても、回復力を保てます。
マインドフルネス瞑想の練習を深めていけば、どんなに打ちのめされてもすぐに立ち直れるはずです。
執着や嫌悪を捨てる
何かに失敗する、あるいは成功するにしても情動が起こり、それにより執着や嫌悪が生まれます。
このような情動に対処する練習により、内面の穏やかさという土台を固めることができます。
どんな執着や嫌悪が湧き起こっても、それらを捨てられるようになれば、情動的な回復力を保てるのです。
フォーマルな練習では、まずリラックスしてボディ・スキャン(記事13参照)を行います。
それから失敗の記憶および、成功の記憶を思い出します。
湧き起こる情動を体で経験するようにして、執着と嫌悪を捨ててください。
どのような情動もたんなる生理的な感覚にすぎないと考え、現れたければ現れ、消えたければ消えることを許すだけでいいのです。
失敗は成功の母
情動的な回復力は、認知的なトレーニングでさらに伸ばすことができます。
マイケル・ジョーダン氏は、これまで何千回も失敗したからこそ今の成功があると言いました。
また、本田宗一郎氏も「成功は99パーセントの失敗に支えられた1パーセントだ」という言葉を残しています。
偉業を成し遂げた人はみんな数え切れない失敗をしてきたということ。
ただし、失敗を恐れなかったわけではありません。
ビル・ゲイツ氏に「彼より頭が良い人を知らない」と言わせたネイサン・ミアボルド氏という人物は以下のように言っています。
「何か革新的なことをするには、混乱し、うろたえ、自分が馬鹿者に思えるようでなくてはならない」
説明スタイル
僕たちが挫折を経験したとき、自分自身にどう語りかけるかという「説明スタイル」が重要になってきます。
楽観的な人は自分には力があるという前提で挫折に反応するから立ち直りが早い。
逆に、悲観的な人は自分の手には負えないという前提で反応するのでなかなか立ち直れないのです。
なので、うまくいくかどうかは頭の良し悪しよりも楽観的か悲観的かで変わります。
ある保険会社では楽観的なセールスマンのほうが販売実績が優れていたことを実験で確かめています。
客観的になることで楽観主義を身につける
持って生まれた性格もあるかもしれませんが、楽観主義は学んで身につけることができます。
その方法は意外なことに、現実的で客観的になるところから始めます。
たとえばあなたが本を出版したとして、10の書評のうちの9つが絶賛する内容、1つが酷評する内容だったとします。
その場合、記憶に残るのはきっと酷評する内容のはずです。
というのも、ネガティブな気持ちのひとつひとつは、ポジティブな気持ちの3倍も強力だから。
なので、人生で幸せな瞬間が不幸な瞬間の2倍あったとしても、主観的には「なんてひどい人生なんだろう」と思っていたりするのです。
ネガティブな偏りを正していく
まずは、自分が失敗ばかりに注意を向け、成功は記憶にとどめていなかったことを自覚しましょう。
客観的に見れば、成功してきたことのほうがずっと多いはずだからです。
次のステップとしてマインドフルネス瞑想をして、自分の経験への客観性を生み出しましょう。
具体的な方法として、自分が成功か失敗を経験したときに、マインドフルネスを自分の体、情動および思考に向けるのです。
最後のステップとして、成功を経験したときに、特に意識的に注目する習慣をつけます。
これにより生まれつきのネガティブな偏りが正されていき、客観性が増していくのです。
大波
明治時代に活躍した大波という力士のエピソードを紹介します。
大波は力も技能も一流の力士でしたが、内気なところがあり人前で勝てないことに悩んでいました。
あるとき、流浪の禅師が近くの寺に立ち寄ったので、大波は禅師に教えを乞うことに。
すると禅師は「自分がその名の通り大波になったところを想像しなさい。目の前のものいっさいを呑み込んでいく大波だ」と助言しました。
大波は一晩その寺に座って瞑想し、自分が波になる感覚に心を向けていきます。
想像の中で、その波は寺の花瓶の花を押し流し、お堂の仏像を水浸しにしました。
その日から大波は、誰にも負けない日本一の力士になったということです。
【記事20に続く】
チャディー・メン・タン著『サーチ・インサイド・ユアセルフ』
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