前回の記事からの続きです。
家族や仕事仲間との人間関係について、相手とどう向き合っていくかを引き続き仏教にならって考えていきます。
今回の記事の後半では『反応しない練習』にも登場したヤクザの男と、著者草薙氏との後日談にも触れます。
「ああこれが仏道というものなのか」と胸が熱くなる展開でした。
理解して励ますスタンスで向き合う
前回の記事ではその人にとっての方向性をはっきりさせるという話をしました。
次にすべきは、迷いなく作業に専念できるレベルにまで方法を具体化することです。
指導が苦手な人は、相手がどれだけ理解しているかを確認する手間を省いていることが多いもの。
言わなくてもわかるだろうと妄想し、具体的に教えてくれと相手に言われたら「自分で考えろ」と逆上したり。
人を指導し、導く立場の人は、状況や方向性などがしっかりと見えていることが前提となります。
見えていれば、正しい方向性をめざして「ではこうしてみようか」と相手を理解して励ますことができます。
そして、押し付けるような「ダウン型」ではなく、一緒に上を目指すような「アッパー型」の関係でいられるわけです。
ヤクザの下請け男との再会
草薙氏は実際このような、人との向き合い方を試された経験があります。
炊き出しの会場で暴れていた男が草薙氏の前で涙を見せた、という話が『反応しない練習』に書かれていました。
本書では、その男と夜に渋谷で再会したエピソードが綴られています。
昼間の出来事の詫びとして、男は草薙氏を行きつけのバーに招きました。
男はボトルのお酒、草薙氏はウーロン茶を飲みながらいろんな話をしたそうです。
男の両親は現在、二人とも刑務所に入っていて、男もやはりつらい幼少期を過ごして今に至るとのこと。
バーで一緒に飲んだけど…
ところで男はヤクザの下請けのようなその日暮らしをしている身であり、お金は大丈夫なのかと草薙氏が聞いてみるものの「大丈夫っす。まかせてください」との返事。
夜10時を過ぎ、男はちょっと電話してくると言って席を立ちました。
そして、そのまま戻ってこなかったそうです。
飲み代を払わず逃げていったという状況ですが、草薙氏は過度に反応せず、まずは理解しました。
普通の人だったら男に対して怒りや失望の感情で反応すると思いますが、草薙氏は仏道に依って立つ人間。
相手の苦しみを理解する
店員さんには「和尚さん、悪いけどボトル代払ってもらえるかな」と、お代は1万7000円だったそうです。
草薙氏は店員とコンビニに行き、そこのATMでお金をおろしながら「こんな場面でおろせるお金がある」と、ありがたく思ったとのこと。
会計を済ませ、夜の繁華街を歩きながら、草薙氏は男の、苦しかったであろう半生を想像しました。
そして、湧き上がってきた言葉は「がんばれ」だったそうです。
相手の苦しみを理解し、慈しみの気持ちを向ければ、怒ることなどできないわけです。
彼とのつながりを保てた
翌日の朝、男から電話がかかってきて「すんませんでした…」の一声。
どうやら酒がまわると男はわけがわからなくなるとのことで、草薙氏は「電話をくれてありがとう」と応じました。
もしも電話がなかったらこの関係は終わっていたわけで、つながりを保てていることを純粋に喜んだのです。
本書の時点ではその男の人生に劇的な変化はないそうですが、草薙氏との関わりが続いている以上、きっとよい方向に向かうだろうと僕は思います。
【記事12に続く】
草薙龍瞬著『こころを洗う技術 思考がクリアになれば人生は思いのまま』
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