前回の記事からの続きです。
妄想、貪欲に続き、次は怒りについて、およびその扱い方を学んでいきます。
仏教でいう「怒り」は、不快な感情全般を意味すると考えてください。
怒りは役に立たない
そもそも怒りは思考ではなく感情なので、理屈で「怒らないように」と考えても普通はとめられません。
怒らないようにするには、根本的な心の使い方を身に付ける必要があります。
まず怒りとは不合理、すなわち自分にとって価値がないことを実感しましょう。
怒りをエネルギーにしてがんばるという人もいますが、怒りは集中を妨げるので実際はがんばれてもいません。
「自分が正しい」は気持ちいいだけ
また、怒りをもって何かを否定することで得られる「自分が正しい」という思いに気をつけてください。
承認欲が満たされることで、認められた気がして気持ちよくなってしまうものです。
これは仏教で「慢」と呼ぶ、自分に都合のいい妄想です。
慢は誇りやプライドと言い替えることもできますが、その思いが意味を持つのは、誰かが助かったときなど他人にとって価値があるときだけです。
妄想が諸悪の根源
このように、妄想で承認欲を満たそうとするから、自分の価値を気にして人と比べたり張り合ったりします。
また、妄想を求めることで現状に満足できなくなったり、過去を振り返って後悔や自己嫌悪が続いたり。
そして妄想に浸っているから生きている実感がない、というように妄想が心を汚している最大の犯人だとわかります。
なので、もし妄想が消えれば、自分を否定する理由など何もないことや、足りないものもないことに気づきます。
怒る必要もないし、考え込んで苦労することもないのだという、シンプルな心境になれるのです。
妄想を洗い流していく過程で、それにつながった貪欲や怒りも手放していけます。
そこから次第に「反応せず理解する」という新しい心の使い方が入ってきます。
心の履歴を振り返る
ある50代の医師の女性は、周囲が敵ばかりの人生に疲れたとのこと。
そこで草薙氏がすすめたのは「心の履歴を振り返る作業」でした。
昔にさかのぼって、客観的な事実と、その当時の反応とを理解していくのです。
まずノートの行に年齢を並べて、すぐに思い出せる出来事を書き出してください。
次にその出来事、客観的な事実に対しての、当時の自分の反応や感情を思い出してラベリングします。
事実と反応を完全に分けるつもりで書くのが大切です。
ラベリングの言葉は「怒り」「わかってほしかった」など、シンプルな言葉でかまいません。
反応モードから理解モードに変わる
心の履歴を振り返ることは、過去に意味を見出すといったものではなく、当時の自分の反応をただ理解するのが目的です。
この作業は休み休みにやるのでかまいませんが、終わるときは「〜と、あの頃は反応していた」という「と言葉」を足しましょう。
「と言葉」によって心の「反応モード」が終わり、いったん理解したことになるのです。
当時の反応を客観的に理解する側に回ることで、その反応から解放されるプロセスに入ります。
ということでその女性医師は地道に心の履歴を振り返り続けた結果、少しずつ心の状態が「理解モード」に変わっていきました。
これまでの自分なら激怒するか無視するかだった相手とも、穏やかにやり過ごせるようになったそうです。
意識エネルギーを「理解」に注ぐ
人生が思い通りにいかない理由は心がクリーンではないからです。
でも、どんな心の汚れも元は貪欲・怒り・妄想という3つの反応にすぎません。
「反応」も「理解」も、同じ意識エネルギーを使っています。
だから「理解」に意識エネルギーを使えば、その分だけ反応が少なくなり、心の汚れが増えなくなります。
その方法がラベリング(言葉による確認)なのです。
そして「消す」作業へ
あくまで「無駄な」心の動きを止めるということ。
無駄な心の動きが止まれば、にごった水が透き通っていくように心がクリーンになっていきます。
クリーンな心は快適であり、集中できるし、ちゃんと生きている実感を持てます。
そして、心の動きを止めたら次は「消す」作業に入りましょう。
【記事05に続く】
草薙龍瞬著『こころを洗う技術 思考がクリアになれば人生は思いのまま』
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