古賀史健著『文章講義』要約#17 原稿にハサミを入れる

読書

20歳の自分に受けさせたい文章講義

前回の記事からの続きです。

今回からは推敲(すいこう)がテーマとなります。

推敲と聞くと、単語レベルで書き直す作業だと思うかもしれません。

でも本来の推敲は映画の編集のように、ごっそりと切ったり貼ったり入れ替えたりする、ダイナミックなものなのです。

その編集作業においても、書く前の編集という段階があります。

考えるべきは「何を書くか」よりも「何を書かないか」のほうだということ。

それぞれについてこれから解説していきます。

推敲という言葉の語源

推敲の語源は、唐の時代のエピソードにあります。

とある詩人が「僧は推す月下の門」というフレーズを思いつきました。

先輩詩人に見てもらうと、「ここの推(おす)を敲(たたく)にしたほうがよくない?」と言われます。

「なるほど、そのほうが音が響いてる感じがして、いいですね」ということで直しました、という話です。

こんな小話が千年以上も残ってるわけです。

ただし、この推敲という作業、うわべの文字を直すレベルにとどまるものではありません。

なので以下から推敲と呼ばずに「編集」という言葉を使っていきます。

書きはじめの編集

編集というのは書き終えた後に行なうものだと思うかもしれません。

間違ってはいませんが、書きはじめる前の段階にも編集作業があります。

たとえば、これから書く文章に元ネタがあるとします。

(このブログ記事の場合、元ネタは書籍そのものになります)

この元ネタを編集する、つまりどの部分を書いてどうつなげるかを考えることで、文章ができあがるわけです。

そして、大切なのが「何を書くか」ではなく「何を書かないか」を決めることなのです。

「何を書かないか」で、大切なものがわかる

元ネタから素材や題材を探すというのが、よくいわれる文章作成のアドバイスです。

しかし実際のところ、素材も題材も探す必要はありません。

「書かないこと」を選んでいくことで、自然に書くべきことが浮かんでくるからです。

これは「引き算の発想」といえます。

対して「足し算の発想」であれもこれもと付け足して書いてしまうと、ほんとうに言いたいことがわからなくなってしまいがちです。

書かないことを選び、引き算していくことで、自分にとって大切なものは何かを考えることにつながっていくのです。

野菜ジュースとオレンジジュース

足し算の文章を「野菜ジュース」、引き算の文章を「オレンジジュース」に例えることもできます。

野菜ジュースは、確かに栄養のバランスはいいのかもしれませんが、〇〇味と表現するのが難しくなります。

一方、オレンジジュースの場合はおいしさや飲みやすさを追求するなかで、ときには果汁さえも引き算します。

そして、オレンジらしさを出すために、香料や着色料を加えることも。

なぜなら引き算によってオレンジの本質(色・甘み・香り)が浮かびあがったからです。

日常文はオレンジジュースのほうで

研究論文や学術書などでは、野菜ジュースのような足し算の文章でも大丈夫です。

でも、日常分においてはオレンジジュース、すなわち引き算の文章であるべきです。

なぜなら、人に伝えるということを最優先にしたいからです。

「何を書かないか?」という問いかけは、単なる消去法ではありません。

自分にとって大切なものをあぶりだす、自己分析の作業でもあるのです。

記事18に続く

20歳の自分に受けさせたい文章講義

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