パウロ・コエーリョ著の小説『アルケミスト 夢を旅した少年』。
前回の記事からの続きです。
夢に向かって第一歩を踏み出したと思ったら、いきなりお金を全部盗まれてしまった少年。
一応、老人からもらった二つの石、ウリムとトムミムは手元に残っていました。
石に触っていると老人の言葉が思い出されます。
「おまえが何か望めば、宇宙のすべてが協力して、それを実現するように助けてくれるよ」
石ではなく意志で決める
「僕は宝物を見つけますか?」少年は自問し、袋の中の二つの石をまさぐります。
黒い石ならイエス、白い石ならノーを意味するのですが、袋に穴があいていて二つの石とも押し出され、地面に落ちました。
少年はこの出来事および、これまで石が落ちずにいてくれたことも含め、よい前兆だと認識します。
宝物が見つかるどうかは、出た石の色に頼るのではなく、自分の意志で決定していくものだと少年は思うのでした。
そしてこの2つの石は老人がいまも少年と一緒にいるということを伝えてくれます。
「僕は宝物を探している冒険家なんだ」と少年は自分に言いました。
少年とキャンディ売り
少年が市場で寝ていたところ、誰かに体をゆすられている感じがして目を覚まします。
一文なしの彼ですが、失うものはもうないとばかりにすがすがしい気分です。
市場ではぼちぼちと露店商たちが店を組み立て始めていて、少年はその中のキャンディ売りを手伝います。
キャンディ売りがキャンディを売るのは「ただそうしたいからやっている」と少年は気づき、その人の笑顔に年老いた王様を投影させます。
そしてキャンディ売りを手伝ったお礼としてあめをもらい笑顔で別れますが、その間ずっとお互いはそれぞれの国の言葉で話してました。
きっと言葉によらないことばがあるに違いない、と少年は考えます。
このことばを、言葉を用いずに理解できるようになったら、僕は世界を理解することができるだろう、と思うのでした。
クリスタル商人
場面は一人のクリスタル商人に移ります。
彼はタンジェの丘の上にお店を構えて30年間、潰れはしないものの細々と商売を続けてきました。
何か新しいことをやるにしては遅すぎると彼は考えていて、今日もまたいつもと変わらぬ日が過ぎると思っていました。
そのクリスタルのお店に一人の少年がやってきて、商人は(あ、こいつお金ないな)と見抜きますが、しばらく様子を見ることにします。
店のクリスタルをみがき始める少年
少年は入口の札を見て、この店の人はスペイン語を含む数ヵ国が話せると知ります。
そして店に入って商人に言います。
「よかったらウィンドウの中のガラスをみがかせてください。そのかわり、何か食べるものをください」
返事を待たずに自分の上着を使ってせっせと店の商品をみがき始める少年。
クリスタル商人はその様子を黙って眺めていたですが、その間にお客さんが二人来て、いくつか買っていきました。
みがき終わった少年に対し、クリスタル商人は「お昼を食べに行こう」と言います。優しい。
そもそもお昼を奢るつもりだった
「おまえさんはガラスをみがかなくてもよかったんだよ」と笑う商人。
というのも商人はイスラム教の信者で、聖典のコーランには「おなかのすいた人には食物を与えよ」と書いてあるからです。
つまり対価としての労働は必要なかったのですが、店の商品が汚れていたのは事実なので、せっかくなのでみがいてもらったということ。
「それにおまえさんも私も、自分の心から、否定的な考えをぬぐいさる必要があったからさ」
意味深なことを言ってから商人は、その間にお客が入ったのもよい前兆だ、とも言います。
エジプトって、遠い
少年は今日いっぱいで店の全部のクリスタルをみがきたいと言います。
そしてその代価でエジプトまで行こうとしているようでした。
商人は、少年の勘違いを正すように説明します。
「おまえさんが、一年間クリスタルをみがいたとしても……全部の商品を売りつくして、歩合をかせいだとしても、エジプトまで行く金はまだ借りなくては足りないよ」
エジプトとここの間には、何千キロという砂漠があるのだから、と商人が言い終わった瞬間、あたりが静寂に包まれます。
商人に言われたことがショックすぎて、少年の魂が沈黙してしまったからです。
どうやら少年の想像していた100倍くらい、エジプトは遠かった様子。
少年は少しの間、死んだほうがマシかと思うくらいに落ち込みますが、ある程度立ち直った後、羊飼いに戻るためのお金を稼ぐために、クリスタル商人のもとで働かせてほしいと頼むのでした。
【記事07へ続く】
パウロ・コエーリョ著『アルケミスト 夢を旅した少年』
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